USアブのシリーズCM「got gears?」にハマる

Instagramで公開されたシリーズCM

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解説

このシリーズCMは米国アブガルシアがリール「ビースト」の販売促進のために公開したもの。「ビースト」とは大物狙いに向けられたリールに対して同社が与えている名称(サブネーム)で、ギア(歯車)が大きいことが特徴です。

で、どこから解説したらいいか迷うところなのですが、まず最初に元ネタの紹介をすると、実はこれ、「Got Milk?」という米国の伝説的CMのパロディとなっています。

「Got Milk?(ミルクはある?)」は、1990年代にアメリカのカリフォルニア牛乳協会が開始した、非常に有名な広告キャンペーンのスローガンです。クッキーやシリアルなど、牛乳と一緒に楽しむ食べ物を強調し、牛乳がない状況の不便さを描く「おあずけ戦略」で消費量を劇的に回復させました。 

Wikipedia、他

このCMは米国で極めて有名になったので、後にパロディも自然発生しています。中でも耳馴染みが良いのは「Got Beer?(ビールある?)」です。

Beer の発音は ビール ではなくて ビア ですから、アブガルシアはこの音に重ねて Gear(ギア) を当てはめたのだろうと思います。そう考えるとシナリオも合点がいくところで、元来の Got Milk? は、1コマ目で朝食のシリアルを見せてから2コマ目で「で、ミルクは?」とオチをつける流れであるのに対し、got gears? はそのような流れは仕組まれていません。

その代わりといってはなんですが、アブガルシアは gear という単語で遊んでいます。

そもそもですが、ギアは歯車という意味ではありません。日本語では「装備」と訳されます。というよりは順番が逆で、外来語の gear が指し示している概念を輸入してきた際に、和訳のために作られた単語が「装備」です。日本語では2個から3個の連続した漢字から成る単語は外来語の訳語として作られたものが多数あります(文化、鉄砲、冷蔵庫など)。

遡って、gear の語源は「作る」という意味の動詞だとされています。それは目に見える物体として表現されますから衣服や甲冑のことを gear と呼ぶようになっていったとされます。

どういうことかというと、例えばこんなシーン。言葉があまり通じない民族間での会話です。

A「それナニ?」
B「コレ?俺が作った(ギア)※回答のズレ」
A「ギア?※意味を知らない」
B「そうさ、ギア(作った)」

こんなふうにコミュニケーションが行われると、当然ながら身につけている物体を指して「ギア」と言うことが多くなります。なので衣服や甲冑、道具や鞄など、広範な物体がギアと呼ばれるようになっていきます。そして歴史上、歯車がギアの範疇に含まれるようになったのは16世紀ごろだそうです。

gear とは、概念的には「工夫して作られたもの」を指すので、装置の歯車などは確かにギアであると思えますが、英語には文字通りに歯車である toothed wheel という語句もあるので、やはりギアは歯車のことではないわけです。言うなれば、歯車の中でも特別な工夫が施されたものだけを「ギア」と呼んだのが始まりだろうと思いますが、そのうちに歯車全般をギアと呼ぶようになっていったのだろうと思います。

ここまでを予備知識として冒頭へ戻ってくると got gear? のビジュアルへの理解が深まると思います。プロアングラーたちが様々なコスプレをしているのですが、いずれも大きなギアを身につけています。ギアとは「設え(しつらえ)」とも言えますから、まさしく「ギアしたギアをギアしてる様子」がビジュアルになっているんですね。とても「ギアギアしい」わけです。

それでこのCMをシェアする際には「got gears?」への私なりの意訳として「ギアってるか?」と付記してみました。元ネタ的には「ギアある?」と訳してもよさそうなところですけれど、それだとビジュアルと合っていないので。

なお、ユーモアがわかる人向けには「ギアはあんのか?(無いなら帰れ)」のほうが良い意訳だとも思っています。アブガルシアのリールは他社製品と比較して大きなギアを搭載しているので、つまるところアブのリールは通行手形であると言いたいのではないかと。

そして、これ書くといろんな方面から怒られそうですが、ビジュアルの豪放さ(悪くいえば下品さ)とスラング感を加味していえば、リールの回転のスムースさを打ち出しがちなアジアンメーカーのリールを暗黙に「タマナシ」と表現しているんだろうなとも感じます。巻いた時にギアの感触がない、イコール、ギアがない、核心部分がない、ということですね。

ギアというのは語源的に「目的ありきの機能性」に焦点がありますから、歯車におけるギアとは作業能率の高さであるといえます。「スムースとか、そんなのはギアの目指すところじゃない、アジアン、お前らのは歯車かもしれないがギアじゃない、デカくて強いヤツだけがギアを名乗れるんだ。」そんな声さえ聞こえてきそうです。

シニカルな含みがありながらもオープンに笑えてしまうのはビジュアルのおかげです。本当によくできたCMだと感心しています。日本でもこのスローガンで展開して欲しいものです。