アングラーのための日本海の基礎知識

はじめに

新潟市の釣り場情報を求めて当サイトをご訪問くださる方々が相当数おられるので、新規カテゴリとして《釣り場ガイド》を設けました。人気記事である《新潟西海岸突堤のあれこれ》はこのカテゴリに移動しました。

今後は釣り場に関する事柄を《釣り場ガイド》カテゴリに投稿していくつもりです。


そこで悩ましいのが、私自身の釣り場に対する考え方です。

私は釣りを楽しんでいますが、アクアリウム(観賞魚飼育)も好きで、むしろ釣りよりもアクアリウムの年数が長いほどです。また、そもそもは海よりも山が好きで、渓流でのフライフィッシングはもちろん、登山、昆虫採集、バードウォッチング、アニマルトラッキングも嗜んできました。

これは私が多趣味であるという話ではなくて、私の趣味の根底は《自然観察》にあるという意味です。それぞれの趣味は《自然観察》の手段なのです。

そのようなわけで、私は釣り場のことを「ここはアジが釣れる場所」というようには捉えておらず、「ここは陸水由来の窒素供給があるから藻場が繁茂してヨコエビ等が増加し、それを捕食する魚が留まりやすい」というような状況判断をしています。

ですから、「いつ、どこで、どういう釣りをすれば、これが釣れますよ」と断言することは、些か無責任な気がしてしまいます。状況次第では魚がいないことだってあるからです。


そこで、まずは大きな枠で捉えて、アングラーが日本海で釣りをする上で知っておくべきことを列挙してみようと思い立ちました。

というのも、日本の人口は暖かくて過ごしやすい地域に偏っていますから、釣りのテクニックや魚の習性といった情報もまた、人口分布の影響を受けて偏っていると考えられるからです。

日本海で釣りをするなら、まずは日本海のことを知る。キーワードに沿ってご案内したいと思います。

縁海(えんかい)

私たちが暮らす日本は大洋に浮かぶ島々の集まりであるかのように見えます。

しかしその正体は、海底からそびえ立つ大山脈の山頂部分が海面から飛び出ているというものです。海中には山脈が続いていますから、日本海は大洋から隔てられた海です。このような海を《縁海(えんかい)》と呼びます。

国土地理院から地図をお借りしました。深度マップでは日本海の閉鎖性が一目瞭然です。

日本海をバスタブに見立てると、縁(へり)から表層の水が移動しているのみであり、大部分の水はバスタブの中に留まっています。このような水は《日本海固有水》と呼ばれます。

日本海は太平洋とは関係性を持っていない独立した海域であることを理解するのが最初のステップになります。

対馬海流とリマン海流

先ほど、日本海は独立していると書きましたが、縁(へり)の部分では水が移動していることにも触れました。

じつは日本海へ注ぎ込む海流がひとつだけあります。それが《対馬海流》です。

《対馬海流》は日本の南西にある東シナ海からやってくる暖かくて清浄な(貧栄養な)海流です。《対馬海流》は日本海を北上します。その一部は青森県と北海道の間にある海峡を抜けて太平洋へと注ぎます。

《対馬海流》は北海道を越えて北上していき、次第に冷却されます。すると今度は《リマン海流》となって大陸沿岸を南下してきます。

要点として、《リマン海流》は日本海の外から海水を運んできているのではないというのがポイントになります。日本海で起こる変化は《対馬海流》が起点となるということです。

深層循環

海流によって動く水は表層から水深300メートルくらいまでで、これは日本海のほんの表層部分に過ぎません。海流の下にはそれよりも遥かに大量の深層水があり、海流とは異なる流れで巡っています。これを深層循環と呼びます。

日本海の深層循環の周期は100年ほどと考えられています。大洋と比較すると短期間で循環するため変化が早く表れるとされますが、一介のアングラーにしてみれば100年でも長いくらいです。

とはいえ、変化が早いことを覚えておいて損はなく、また、朝鮮半島東部では《リマン海流》と流れの方向が揃っているため、その周辺で生じる変化は日本沿岸を占う材料にもなります。


スポット的な話を添えると、能登半島と佐渡島の間の海底には南北方向に小さな海溝があり、そこに沿って深層水が南下しています。そして沿岸にぶつかると湧昇流となって《対馬海流》と合流します。

《対馬海流》は暖かいですが栄養塩を含まないのでプランクトンを育みません。一方で深層水は栄養塩が豊富ではあるものの冷たい海水です。これら両方が合わさることでプランクトンが増えて豊かな漁場が生まれます。

そのことにより、石川県の富山湾から、新潟県の糸魚川、上越、柏崎、寺泊あたりまで、漁場として有名な場所となっています。新潟市のアングラーも中越や上越まで足を伸ばす方も少なくありません。そのくらい大きな違いがあります。

ただし、2024年1月に発生した能登半島地震の後、能登半島と佐渡島の間にあった深層循環の流れは弱まったことが報告されています。こういった変化から未来を予測していくことは大切なことでもあり、《自然観察》の醍醐味でもあります。

寒冷前線

海の上にある手がかりについてもお話ししたいと思います。それが天気図。特に日本海の上に発生した《寒冷前線》についてです。

《寒冷前線》というのは、水蒸気を含んだ暖気に冷たい寒気がぶつかって積乱雲などが発生している場所を示しています。そして、日本海の上で水蒸気を供給しているのは暖流である《対馬海流》です。

要するに、《寒冷前線》の位置は《対馬海流》と関係していると考えて、海流の位置を想像しようということです。

これは天気予報を見ながら海流を予想するゲームのようなものです。正解を知りたい場合は、海上保安庁の《海洋速報》を見れば答え合わせができます。《水温海流合成図》が一番わかりやすいでしょうか。

世の中には様々な観測データがあるものです。ショアアングラーが日々これらを見る必要はないですが、もっと関心を持ってもよい気はします。その点、天気図ならば目にする機会は多いですから情報を理解する習慣づけにピッタリだと思います。

おわりに

この記事ではアングラーが日本海について知っておくべきことを、かいつまんでご案内しました。文字数の都合で割愛した部分もたくさんあります。興味がございましたら気象庁ですとかWikipediaでもよいので、深くお調べになるとよいと思います。

また、わずかにスポット的な情報も添えましたが、新潟県や新潟市に関しての詳細な事柄は別の記事でまとめたいと思います。

この記事を面白いと思っていただけたら嬉しいです。