MAX5 ELITE ROCKET
2025年11月発売
C6フレーム、ギア比9.0:1で最大ライン巻取り量93cmのMAX5 ELITE ROCKETが登場。
PURE FISHING JAPAN – 製品ページ
所感
小さくないインパクトがありますね。前提として9ギア以上のベイトリールを日本国内で扱っているブランドはアブガルシアだけだったと思います。そのアブガルシアもこれまでは高価格帯のモデルにのみ9ギアをラインナップしていたので、この MAX5 ELITE ROCKETがメーカー希望本体価格¥21,000でリリースされるとなれば9ギアを手に取りやすくなると思います。
ちなみに9ギアともなればベイトリールでもファイト時の負荷は大きなものになりますから基本的には利き手で巻くことをおすすめします。撃って回収を繰り返すだけなら利き手にロッドを持つほうが便利に感じますけど、いざビッグフィッシュが掛かったときに後悔するかも。利き手で巻いておけば初動が早い上にロングファイトでも隙を生じにくく、抜き上げができない大型魚に対してランディングを利き手でおこなえるという利点があります。
ゼノン以降のコンセプト主義について
近年にアブユーザーとなった人には関係のない話ですけど、長年のアブユーザーの中には最近のモデルを理解しにくいケースもあるようなので補足してみたいと思います。コラムに書いたほうが良いと思いつつ、ここに置いておきます。
はじめにお伝えしたいのは、ゼノン登場以降、アブの製品開発のオペレーションは根幹の部分で変化がみられるということです。それは製品ラインナップをみると理解しやすいです。
ゼノン登場以前の、レボ4までの製品群はヒエラルキーシステムで管理されていました。レボの名を冠したモデルはハイエンド機という位置付けです。
そこへゼノンが登場した時、従来のヒエラルキーシステムへの対応としてはハイエンドに位置付けられましたが、本質的な部分では異なっていました。ゼノンはコンセプトに基づいて設計されたモデルです。それは開発や製造の考え方であり、マーケティングを優先したヒエラルキーシステムとは全く違います。
当時、私はゼノンだけがそのようなコンセプトを持つと思い込んでいましたが、その後にレボ5が登場してからは(レボ4と違って)コンセプトが前面に出ていると徐々に気がつきました。
順を追って説明すると、レボ4は「レボ」というシリーズネームがヒエラルキーの階層を示しており、その後に続くサブネームがヴァリアント(変異種)を意味していました。このシステムにおける「レボ」は、どのようなヴァリアントであれ「レボの品質」を保っていると考えられましたが、ヴァリアントごとに用途や性能が大きく異なってしまうことが容認されており、小さいレボも大きいレボも混在していました。
この混在の問題を引き起こした原因は、誰だって良いものが欲しいからレボの名を冠したほうが売れる、というマーケティングの決定にあっただろうと思います。結果、あまりにもレボが増えすぎて有り難みがなくなり訴求力を失っていました。
それがレボ5ではコンセプト主義に変化しました。具体的な点を1つ挙げると、レボ5はその性能からみて「中重量級ルアーに対応する」という要素がコンセプトに含まれているはずと推察できそうです。だとすればレボ5には軽量級ルアーに対応することを示す「LTX」をサブネームに持つモデルは登場しないだろうということも言えます。
そしてレボ5のサブネームには「SX」や「STX」のようにヒエラルキーシステムが採用されています。総合すると、中重量級ルアーに対応した製品シリーズの中に低価格帯から高価格帯まで設定したという図式です。これはゼノンも同様です。
このようにアブがコンセプト主義でモノづくりを考えているということは、一方でヒエラルキー主義を捨てたとも見えます。簡単に言ってしまえば、ゼノンは最高額機種ではないので「オレ、ゼノンユーザー」というドヤりはアブガルシア製品では成立しません。見栄に基づく消費行動を持つユーザーを顧客の優先リストから下げて、その代わりに、自らに適した道具を選べるような目利きのユーザーを上得意様としていくことを表しているように思えます。王道的で健全な経営路線であると感じます。
コンセプト主義の恩恵
改めて MAX5 ELITE ROCKETを見てみましょう。この製品名は、MAX5 コンセプトによる、ELITE 階層のモデルで、ROCKETのヴァリアントを持つと読めます。階層に STX を踏襲せずに ELITEとした理由はわかりませんが、そもそもSTXの意味がわからなかった私としてはスッキリ。
(Xはローマ数字の10を表して「完成」を意味します。SXは Super X = 10越え、日本語でいう120%みたいな意味。じゃあSTXは?..いくら考えても分かりませんでした。ELITEは「精鋭」「選りすぐり」を意味します。)
MAXについては、楽しさを最大化するという意味を想像しますし、品質や性能に過不足がなく満ちているという意味も浮かびます。ROCKETは単純な機能(9ギア以上であること)としての意味だけを付与します。レボ4が混沌としていたことを思うと、極めてシンプルで分かりやすくなったと感じます。
もはやテクノロジーはヒエラルキーシステムには位置づいていません。ゼノンにもレボにも、そしてMAXにも9ギアのモデルが存在することになります。ある機能が上位機種にしかないからそれを買うしかない、という不自由さはなくなるのでしょう。
私などは昭和の物質主義を引きずっていて、高価格帯の製品のほうが所有欲も満たされて後悔がないだろうと思ってしまいますが、今の時代はMAXを適度にカスタムして使っている人のほうがカッコイイということも頭では理解しているつもりです。
道具は簡単な仕立てに留め、技術で魅せる。それがスポーツマンのあるべき姿です。ベテランがアブガルシアのMAXを使っていたら、そういう高みにいる人(まさしく ELITE )だと思って尊敬しちゃいます。
そのような価値観の転換は日本の釣り界には特に求められているように感じます。物質主義の下ではお金のある大人がドヤってて、子どもたちからみたらカッコ悪い世界に映ってるんじゃないでしょうか。そうではなくて、ある魚を同じ時間・同じ場所で狙うなら道具も同じでいいはずです。大人も子どももMAXでやるから、どっちが上手なのか決着するわけで.. そういう世界は子どもにとって魅力的に映るはずです。
MAX5 ELITE ROCKETの登場は相当に意義のあるもののように思っています。10年後がどんな世界になっているか見てみたいですね。